山口雅也『奇偶』(ISBN:4062115824)

具合が悪く研究会を休んだので、久々に読書。まあ本が読めるということはまだそこまで酷くないということか。

「偶然」をテーマに書かれた小説。最後の方になってようやくミステリ仕立てになるが、ミステリと思って読まない方がいいと思った。ミステリ的なオチ、特に密室破りに関するそれは、ガッカリしたけどまあしょうがない、という感想だが、最後の最後の一段、2ページほどの部分だが、あれはどういう意図なのか量りかねている。僕には、自ら打ち消した多分岐世界へ再び戻ってしまっている、としか解釈できなかった。なにか他の筋の通った解釈が無ければ、最後のひとつ前のところであんな小細工をする必要はなかった。ストレートに終わらせておけば良かったのにと思う。

この小説がどうこうという以前に僕は偶然に対する恐怖感というものがよくわからない。我々がいう「偶然」とは、因果関係のない偶然か因果関係のある必然かのどちらかでしかない。起こりうることは起こっておかしくない、というのは当然のことだ。

あと、もうひとつこの本を読んで思ったことは、易や道教、あるいは仏教などの古い時代の思想を、現代思想や科学と結びつけて考えることは適切ではないということだ。たとえその二つになんらかの共通する要素があったとしても、それはまさに「偶然」であって、直ちにそれを結びつけてはいけない。そもそもそれらの思想が語られている環境が違いすぎる。同じく「世界」のことを語っていたとしても、その「世界」はそれぞれ異なる意味を持っているということもあるが、それ以上に異なる意図・世界観のもとで発されるからだ。

もちろん一方によって一方がインスパイアされることは、否定しないし、むしろ推奨すべきだろうが、単純に結びつけることの弊害に関してはもっと意識されてもいいと思う。