最近読んだもの

有栖川有栖『山伏地蔵坊の放浪』(ISBN:4488414044

放浪稼業の山伏・地蔵坊が自らの体験談を披露するという形式で語られるミステリ短編集。聞き手がみんな山伏が話しているところをエンターテイメントだと割り切っているところが新しいかと。特に「割れたガラス」で聞き手の推理が真相に辿り着く気配を見せ始めたときに地蔵坊がそれを強引に遮って自分が真相を語る方向に持っていく所などは、「語り」と「騙り」の現実的な融合を見たような気がして面白かった。もちろん有栖川有栖自身の自虐的ミステリ作家像というものが投影されての作品だろうけれど、ここまでおおっぴらにやるのはなかなか見ない。

法月綸太郎『生首に聞いてみろ』(ISBN:4048734741

著名な彫刻家の遺作となる石膏像から首が切り取られる、という事件を発端に始まる長編推理。

どうもネタバレをせずに全体的な像をまとめづらいが、とりあえず噂に違わぬ良作かと。一貫して探偵役の視点で描かれ、新事実の発見とともに探偵が考えていることが変わっていくことも見て取れるので、中だるみのような退屈さは感じさせないところも好印象。複雑な伏線が解きほぐされていく過程は非常に面白い。探偵の視点で書かれ、探偵が直接事件の渦中で重要な目撃、遭遇をしているので、それの裏の意味が明かされたときの驚き、感心の度合いが非常に高められていると思う。(続きを読む以下は原則ネタバレあり)

個人的なことを言わせてもらえば、過去の事件の被害者が悲惨すぎるし、なんというか犯人の動機がもうひとつ。もちろん納得できないというレベルではないが、もう一個そこにサプライズがあれば傑作と評せたのに。まあ、もともと法月氏の書くミステリでは突飛な動機を持った犯人というのは少ないように思うが、これはやはり「変格」ではなく「本格」を指向する以上仕方ないことなのかもしれない。奇妙な世界で描かれるミステリの場合、動機が多少おかしくても許容されるが、端正な本格の場合は、動機もそれなりに常識的なものが用意されなければならないのだろう。