神林長平『膚の下』(ISBN:4152085614)

荒廃した地球をどのように復興するかをめぐって人間が対立を深める中、人間によって作り出された人造人間アートルーパーたちが、自らのアイデンティティを求めて思索し行動し新たな創造に至るSF巨編。『あなたの魂に安らぎあれ』『帝王の殻』の続編、火星三部作の完結編として書かれたものだが、単独で読んでも十分に味わいのある一冊でした。(続きを読む以降は原則ネタバレあり)

まあやはりアートルーパーに生殖能力がないというのがアートルーパーの性格形成に非常に大きな影響を与えているように感じました。マ・シャンエの感情の歪みというのはいまいち僕にはわかりにくかったんですが、やはり人間そっくりで劣った存在と考えるからでしょうか。近代以前にはまさにそういう存在であった「奴隷」がいたのですが、人間は奴隷に対してもああいう感情を抱けるものなのでしょうかね。

さてもう一つ不思議なのは「梶野少佐」の存在。梶野少佐は「あな魂」「殻」「膚」の三部作すべてに登場する唯一のキャラクタなのですが、この三部作目でなぜああいう役回りの人物を「梶野少佐」と設定したのか、その意図がよくわかりません。作者の立場からすると、「梶野少佐」という名前を「間明少佐」の役割に割り振ることもできたし、「石谷少尉」の役割に割り振る方が読後の印象的には納得いく配役の気がする。まあ前二作に出てくる「梶野少佐」はやや無個性なので、あまり強力な個性の持ち主には割り当てられなかったということかもしれませんが。

個人的に好きな場面は破沙警察からD66前線基地に連絡を取ろうとするところです。暗号を探し当てるまでの展開、主人公たちの知らないところで動いていた事態に対して鋭く対応していこうとする駆け引きや、機械人との対話の妙などが凝縮されていて良かったです。

やっぱでも僕は機械人に憧れますね。