加藤隆『福音書=四つの物語』(ISBN:4062583046)

 押さえておきたい分野の話だったので一応買って置いたが最初のあたりで止まっていたのを、「pata:本とサッカーの日々」の2004年人文書総括の中で評されているのを見て再開し、読了。

 話自体は新約聖書に含まれる四つの福音書のそれぞれがどういう立場から書かれたのかを非常にわかりやすく書いていて、十分納得できるものであった。とくに「神との結びつき」という観点を軸にした分析は、僕が論文IIでやろうとしていたイスラームの初期形態の分析と近いものがあり、援用可能であろう。

 気になった点を挙げれば彼が各福音書の分析の末尾に付けた「その福音書の問題点」が、キリスト教徒、新約聖書を信じている者としての問題点を挙げていたことである。全体のまとめにおいてもこの姿勢は維持されているため、歴史学研究者のはしくれとしてはいささか気持ち悪かった。福音書分析の手法・論理展開そのものには違和感がなかっただけにびっくりした。神学部出身だからだろうか。ここのあたりの感覚はまったくわからない。

 もう一つ、できれば日本語のものだけでもいいから参考文献を付けてほしかった。彼の語った話のどこまでが従来からの常識でどこからが彼の考えなのか、論文のように厳格である必要はないが、そこを知るために。専門でない分野の論文を見つけるのはやや面倒だというだけなので、こちらの怠慢かもしれないが、まあそれくらいはやってほしい。

 またアマゾンジャパンの書評を見る限り、これが決定的に受け入れられているような気配では全然ないので、できればもう少し類書を読んでおきたいところだ。

 まあでもとりあえずは上記リンクで2004年度のナンバーワンに挙げられていた筒井道夫『グノーシス』を読むつもり。古代のキリスト教ユダヤ教、特に中東地域でのそれはイスラーム初期のイスラーム史研究において欠くことができない「教養」だろう。ちゃんと勉強しないとなあ。