ダン・シモンズ『ハイペリオン』『ハイぺリオンの没落』『エンディミオン』『エンディミオンの覚醒』

去年の十二月頃から(確か)読みはじめた「ハイぺリオン」四部作をようやく読了。面白かったです。それぞれ文庫で二分冊、一冊一冊が600頁を越える超大作なので、読むのはかなりしんどい部分もありましたが、読んで損したという気分はありませんでした。

(以下ネタバレあり)







しかしまあよくもこれだけいろいろなところから素材を集めてきてごった煮的に詰め込んだものです。構造的にはアラビアンナイト的だといえるかもしれません。

でもこれ面白かったんですけど、僕はこれをSFとは言いたくないですね(笑)「愛」はないよなあ。あと欲を言うなら東洋的宗教に関することを書くならもう少しなんとかしてほしいと思いました。

人物に関しては僕はアイネイアーとマーティン・サイリーナスは好きじゃないですね。正直機会があったとしてもアイネイアーの血は飲みたくない。同じように聖十字架も気持ち悪いですけど。エンディミオンには好感が持てます。アイネイアーが未来を言わないことについては、まあ多分予断を与えたくないということなんでしょうけど、やり方が若干稚拙な気もします。見たものをなぞっているだけでないならなおさら。

サプライズ的な面で言うと、シュライクの正体と観察者の正体には唸らされました。アイネイアーエンディミオンの大オチなんかよりも、この二つだけでこの四部作を読んだかいがあったと思いました。でも総じて伏線の回収は見事だったと思います。

ハイペリオン』『ハイぺリオンの没落』ではソル・ワイントラウブのエピソードが一番好きだったんですが、ここもやっぱり最後に「愛」で終わられたのは若干肩すかし感がありました。まあいろいろ説明してないわけじゃないんですが、やっぱりでもそこで「愛」(原作では多分loveでしょうからもう少し意味範囲が広いと思いますが)という言葉を使われると・・・。「共感」ならまだアレなんですが。

あと訳はかなり良い訳だと思いました。イスラーム系の言葉で若干の違和感が残るものもありましたが、許容の範囲内ということで。

まあでも日本人も結構出てきましたね。イソザキさんは結構好きです。あらぬ方向に行ってしまって「あらら」と思っていましたが、最後はなんか少しいいところをもらえたかなという。でも日本人はああいうイメージですかね、アメリカ人から見ると。表情を殺す訓練、みたいな。

一番熱中して読めたのはやはり『ハイぺリオンの没落』の下巻あたりでしょうか。あそこのあたりは本当に結末が読めなかったし、次から次へと人が変わったり状況が変わったりしてページをめくる手がとまりませんでした。『エンディミオンの覚醒』の下巻もそういうところはあったんですが、やはりアイネイアーの大オチという誰にでもバレバレな伏線があった分「これからどうなるんだ?」という期待感が削がれたようで。

しかしこれだけの話のオチとして、果たして「悪いのは機械でした。コアをやっつけてめでたしめでたし」で良かったのかという疑問は残りました。まあシュライクが生まれるということですから今後もコアとは戦いが続くのかもしれませんが、もう少しコアが賢くても良いと思います。長いことコアを出し抜いてきたアイネイアーが拷問でなにかを吐くと予想するより、時間を与えることの危険を評価しても良かったんじゃないかと思うんですけどね。それほどにコアが行きづまっていたという現れかもしれませんが、神林長平あたりの機械観が先に入っている人間からすると違和感が大きかったです。ネメスも最終的にはなんかダメダメでしたしねえ。エンディミオンにやられるっつうのは、ねえ。行動にもインテリジェンスが感じられなかったですし。もっとファーストタイムを有効に使えるだろ、と。まあこれもシュライクとの絡みで見落としてる部分があるのかもしれませんが。

もうひとつ「選べ、もう一度」(多分原文ではchoose againなんじゃないかと思いますが。違うかな)というスローガンですが、これ自体には非常に共感できます。でもそのためには選び直すための下地を作っておくというか、最初に道を選ぶ時に後戻りできるように準備しておかなくてはダメだと思うわけですよ。でもそれは逆の立場からいうと物凄い資源の浪費でもあるわけです。使わないかもしれない道をたくさん準備しておくというのは。大概のことは選び直すのに物凄いコストがかかりますからね。僕個人はどちらかというと大変であっても後戻りするための準備をしておくようにしたいタイプなのですが、結局は比較衡量でしかないのではないかという気もします。どっちの効率がいいかという。そこは価値判断ですから、普遍的な原理にはならないと思います。

ということで雑多な感想をまとめると、

最終的な回答が「愛」ってのはどうなのよ

もうちょっと機械のことも評価してあげて

アイネイアー、大変なのはわかるけどもうちょっと頑張って

というところでしょうか。

もう続編はないらしいのが残念です。「熊と虎と獅子」の話とかは終わってないだけに。

でも結局西欧で書かれるSFは「キリスト教+いわゆる東洋思想」なんだよなあ。終わってみると。