小田中直樹『歴史学ってなんだ?』PHP新書286

読了。「第一章 史実を明らかにできるか」「第二章 歴史学は社会の役に立つか」「第三章 歴史家は何をしているか」というように微妙に歴史学に批判的な人たちが訊きそうなことに対して考察している。

筆者は経済畑の人のようだが、話は概ね的を得ていると思う。例えば、

では、歴史家は社会の役に立とうとするべきなのでしょうか。(中略)ぼくの答えは、「役に立とうとするほうがよいに決まっているが、そうしなければならないとまではいえない」という、ちょっと中途半端なものになります。(p.127)

というところのバランス感覚はとても正常なものだと思う。また、歴史を「物語と記憶」として捉える見方に対する反駁も歴史学者の立場として妥当なものであろう。結局科学は蓋然性なのだから。まあ、例示が多すぎて正直わかりやすいんだかわかりづらいんだかよくわからないような印象があったとはいえ、平易な言葉で歴史学そのものについて書いた本として貴重であり、その意味で筆者の目的は達せられていると言えるだろう。