仲正昌樹『「分かりやすさ」の罠-アイロニカルな批評宣言』(ISBN:4480063021)

以前Munchener Bruckeで紹介されていて、読みたいなあと思っていたものがやっと届きました。比較的サクサク読了。面白かったです。

簡単に言うと、分かりやすい「二項対立」的思考に内在する問題について、「二項対立」、さらには「アイロニー」という点から考察し、二項対立をアイロニカルな視点から見直すことの意義を表明した本だと言えるでしょうか。著者の主眼は現代批評の方にあるかもしれないんですけども、個人的には第二章における、ギリシャ哲学からヘーゲルマルクスデリダあたりを辿って「二項対立」に関して考え直した部分が一番面白かったです。

筆者の論に概ね反論はないのですが(まあ2ちゃんねるに対する理解はやや皮相的かとは思いますが)、あとがきの以下の部分を読んで少し思うことが。

ちゃんと読んでくれた読者にはいまさら言うまでもないことだが、あのエピソードを締め括りにしたことには、政治的な二項対立の焦点になっている問題に、アイロニカルな批評を試みれば、私のようにロクでもない目に遭うので、人に嫌われるのが極端に嫌な人はアイロニストになろうなどと思うべきでない、という結構強いメッセージを込めたつもりである。(p. 233)

これにはまず大爆笑し、次にこれが「アイロニカルな批評を試みる私」へのアイロニカルな批評であることに気付いてなるほどと思いました。

しかしそのような構造的なところは別にして、「アイロニカルな思考を持ちつつも、人に嫌われるのが嫌でアイロニスト的言明をしない人」というのは意外と多く存在するんじゃないか、と思いました。まあそもそも一般生活において、アイロニカルな言説が可能であるような命題に対する答えを求められることもそうそうないですけど。

そういうサイレント・アイロニストとでもいうような人たちが、例えば選挙における投票というような、実際になにかの選択を迫られるときに、どういう風に振る舞っているのか、ということに関しては興味があります。

あと、あとがきに若干書いてある感じではあるんですが、筆者の喧嘩腰な書きぶりの必要性がイマイチわかりませんでした。

もうひとつ、陳腐な感想ではありますが、「『「分かりやすさ」の罠』という本がこんなに分かりやすくていいのか?本当はどこかに罠が隠されてるんじゃないのか?」と思ってしまいますね。まあそれは今後のことで、興味がある人は読んで損はないんじゃないかと思います。多分。