G. R. Hawting, The Idea of Idolatry and the Emergence of Islam, Cambridge U.P., 1999.(ISBN:0521651654)

端的に言うと、イスラーム以前のアラビア半島多神教世界だったというのは、どうも嘘臭いよ、という本。ただし否定しきってもいない。具体的には、コーランの中で多神教徒と解されてきた語句の解釈の見直しと、それ以降の伝承のコーランとの齟齬、曖昧さ、不確実性などを指摘し、従来の理解に疑義を呈している。

正直最初に期待していたほどにはガツンとした結論が出てこなくて拍子抜けしたが、初期の伝承の扱いという観点で見ると、参考とすべき点は多い。まあもちろんムハンマドの時代とウマイヤ朝期は別なのだが。

最近になってようやく気付いたのだが、初期イスラーム時代を理解するためには、その百年くらい前からの西アジア社会の状況を把握しなければ話にならないようだ。気付くのが遅いという話もあるが、遅すぎないことを願うばかりである。