安部公房『砂の女』(ISBN:410112115X)

読了。未読だったのが若干微妙なほどの有名作品ですが、あんまり響きませんでした。確かに引き込まれるものはあるんですが、始め方と終わらせ方は好みではないし、結局寓意が勝ちすぎていると思います。なんというか、時代を超えていない、という感想です。わかりやすすぎます。まあこれも好みの問題でしょうけども。

この本は二十数か国語に翻訳されているとのことですが、やっぱりそういうわかりやすさが翻訳に適しているんだろうなあと思いました。ふと思ったんですが、海外での『ドグラ・マグラ』の評価はどうなんでしょうかね。翻訳されてるのかなあ。んー。

追記:

(つまり、日本における精神分裂症患者の数は、百人に一人の率だって言うのさ。)

(それが、一体…?)

(ところが、盗癖を持った者も、やはり百人に一人らしいんだな…)

(一体、なんの話なんです?)

(男色が一パーセントなら、女の同性愛も、当然、一だ。それから、放火癖が一パーセント、酒乱の傾向のある者一パーセント、精薄一パーセント、色情狂一パーセント、誇大妄想一パーセント、詐欺常習犯一パーセント、不感症一パーセント、テロリスト一パーセント、被害妄想一パーセント…)

(わけの分からん寝言はやめてほしいな。)

(まあ、落ち着いて聞きなさい。高所恐怖症、麻薬中毒、ヒステリー、殺人狂、梅毒、白痴…各一パーセントとして、合計二十パーセント……この調子で、異常なケースを、あと八十例、列挙出来れば……無論、出来るに決まっているが……人間は百パーセント、異常だということが、統計的に証明出来たことになる)

(なにを下らない!正常という基準がなけりゃ、異常だって成り立ちっこないじゃないか!)

(pp. 241-242)

統計的に証明できたことにはならない。わかっててやってるのかもしれないが、こういうところが結構萎える。